「もっと働きたいんだけどね」
ここ数年、何度この言葉を飲み込んだか分かりません。
10月から、勤め先のルールが変わりました。私が働ける時間が、月に2日分ほど減ります。
それなら、いっそ扶養を外れて働いたらどうか。そう思って、電卓を叩いてみました。
結論から言います。扶養を外れて年228時間よけいに働いても、手取りは年6万6千円しか増えませんでした。 時給に直すと——291円です。
この記事は、専門家ではないふつうのパート主婦が、自分の働き方を数字で洗い出してみた記録です。
何が起きたのか
勤め先から言われたのは、こうでした。
10月から、扶養内で働くなら月68時間以内でお願いします
これまでは「月88,000円以内」という金額での調整でした。それが時間での管理に変わったんです。
理由は、年収を130万円に収めるため。
そしてここで、私は初めて知ったことがありました。
交通費と賞与も、130万円に含まれるんです。
「130万円の壁」の正体
ここ、勘違いしている人が多いところです。私もそうでした。
壁は2種類あります。
① 所得税の壁
2025年の改正で、年収160万円までは所得税がかかりません。配偶者特別控除も、150万円までは満額。つまり税金の壁は、もう大きな問題ではありません。
② 社会保険の壁(130万円)
問題はこっちです。ここを超えると、年収のおよそ15%が社会保険料として引かれます。
そしてこの130万円の判定には、
- 給与
- 賞与
- 通勤手当(交通費)
全部が入ります。
交通費は所得税では非課税なのに、社会保険では収入に数えられる。ここを知らずに超えてしまう人が、けっこういます。
計算してみた
私の条件(時給1,160円・賞与年5万円・交通費月5千円)で並べてみます。
| 扶養内(月68時間) | 扶養を外れる(月87時間) | |
|---|---|---|
| 給与 | 946,560円 | 1,211,040円 |
| 賞与・交通費 | 110,000円 | 110,000円 |
| 収入合計 | 1,056,560円 | 1,321,040円 |
| 社会保険料 | 0円 | −約198,000円 |
| 手取り | 約105万円 | 約112万円 |
差は、年6万6千円。
そのために増える労働時間は、年228時間(月にすると19時間)。
66,000円 ÷ 228時間 = 時給291円
これが「働き損ゾーン」と呼ばれているものの正体でした。
なぜ、こんなことになるのか
収入が増えたぶん、社会保険料と税金で持っていかれるからです。
私の場合、収入は約26万円増えます。でも手元に残るのは6万6千円。約20万円が消える計算でした。
このゾーンを抜けるには、年収160万円以上を狙う必要があります。中途半端がいちばん損なんです。
でも、私にはもうひとつの壁がありました
ここからは、数字じゃない話です。
本当は、もっと働きたい。
収入のこともありますが、それだけじゃありません。外に出て、人と話して、役に立っている実感がある——その時間が好きなんです。
でも、私には親のことがあります。子どものことがあります。
通院の付き添い。役所の手続き。家族の書類。
そのどれも、平日の昼間しか動けません。
私の勤務は、1日あたり5時間半ほど。月19時間よけいに働くというのは、1か月に、自由に動ける平日が3日半なくなるということです。
1年にすると、約40日。
だから、私は扶養内を選びました
手取りの差は、年6万6千円。月にすると5,500円です。
月5,500円と、平日3日半を交換するか。
私は、時間を取りました。
「働けない」のではなく、その時間を別のことに使うと決めた——そう言い換えたら、少しだけ気持ちが軽くなりました。
正直に言うと、扶養を外れるメリットは大きいです
ここまで「手取りは増えない」と書いてきましたが、扶養を出ることを否定したいわけではありません。むしろ、条件が合うならそちらのほうがいいと思っています。
手取りの数字には出てこない価値が、ちゃんとあるからです。
① 厚生年金が増える
扶養に入っている間、将来の年金の「上乗せ部分」は1円も増えません。
厚生年金は、加入した月数に比例して増えます。「10年入らないと意味がない」ということはなく、6年でも65歳から年4万円ほど上乗せされ、それが一生続きます。
② 雇用保険がなくなりました
実は私、少し前まで雇用保険に入っていました。
働く時間が減って、なくなりました。
雇用保険に入るのは週20時間以上から。扶養内で働く以上、ここには届きません。
なくなって初めて、何を持っていたのかを知りました。
- 失業給付 … 仕事を辞めたときの備え
- 教育訓練給付 … 資格の講座費用が戻ってくる(費用の20%・上限10万円)
- 介護休業給付 … 家族の介護で休むとき、賃金の約67%が最大93日分
今の私には、このどれもありません。
③ 傷病手当金
病気やケガで働けないとき、給料の約3分の2が最長1年6か月。扶養では出ません。
正直に書くと、いちばん堪えたのが②でした。
教育訓練給付——私は今、簿記の勉強をしています。もし雇用保険があれば、講座費用の支援が受けられたかもしれません。
介護休業給付——家族の介護で休むとき、賃金の約67%が出る制度。これから必要になるかもしれないのは、まさにここです。
手取りは月5,500円しか変わらない。でも、**こういうものが静かに削れていく。**それが「扶養内で働く」ということでもありました。
**それでも今回は、目の前の平日を取りました。**でも、扶養を出る道のほうが良いと思う日は、たぶん来ます。
もし扶養を出るなら、ここだけは
同じことで悩む人のために、調べて分かったことを書いておきます。
中途半端に超えるのが、いちばん危険です。
扶養を外れるときは、2種類あります。
- 勤め先の社会保険に入る(週20時間以上)→ 保険料は会社と折半。厚生年金も増える
- 130万は超えたのに、勤め先の社会保険に入れない(週20時間未満)→ 国民健康保険と国民年金を全額自己負担
**後者が最悪です。**折半してくれる相手がいないので、負担が倍近くになります。しかも国民年金なので、将来の年金は増えません。
まとめ
- 130万円の判定には、交通費と賞与も含まれる
- 扶養を出ても、中途半端な働き方では手取りはほとんど増えない
- 出るなら、週20時間以上で勤め先の社会保険に入ること
- ただし、厚生年金・雇用保険・傷病手当金という、数字に出ない価値もある
私は今回、時間を選びました。でもこれは一生の決断ではありません。
親のことが落ち着いたら、また電卓を叩くつもりです。そのときは、たぶん違う答えが出る。
**同じように「働きたいけど働けない」と思っている人へ。**一度、自分の数字で計算してみてください。モヤモヤの正体が見えると、選んだ道に納得できます。
(※制度は改正されます。また、勤め先や加入している健康保険組合によって判定の運用が違うことがあります。具体的なことは、ご自身の勤務先やお住まいの年金事務所でご確認くださいね。)

